甲状腺とは

甲状腺イメージ

喉ぼとけのちょうど真下に位置しています。蝶が羽を広げたような形をしているのが特徴です。甲状腺では、甲状腺ホルモンが作られ、分泌や保存といったことが行われています。つまり、下垂体、副腎、膵臓、性腺(卵巣、精巣)などと同じ内分泌器官のひとつです。一口にホルモンと言いましても、それぞれの内分泌器官で特徴が異なるわけですが、甲状腺ホルモンは新陳代謝を促す働きをします。

また甲状腺ホルモンに限らず、ホルモンというのは常に適切とされる量が分泌されなければならず、その量が多すぎる、あるいは少なすぎるという場合、身体に様々な症状がみられるようになります。また、甲状腺が炎症を起こす、腫大するという場合も同様な状態となるわけですが、これらが確認されると何らかの甲状腺疾患に罹患しているということになります。同疾患による患者さんの多くは女性で、比較的男性の比率が高いとされるバセドウ病(甲状腺機能亢進症のひとつ)でも、その男女比というのは1:4程度と言われています。

甲状腺疾患でよくみられる症状

甲状腺ホルモンの分泌量が過剰な場合

  • 発汗
  • 暑がる
  • 易疲労性
  • イライラする
  • 首が腫れる
  • 頻脈
  • 動悸
  • 手足に力が入らない
  • 指先が震える
  • 眼球突出
  • 食欲はあるものの体重が減る 等

甲状腺ホルモンの分泌量が少ない場合

  • 体にむくみがある
  • 声がかれている
  • 体重が増えている
  • 便秘
  • 寒がっている
  • 記憶力の低下
  • 易疲労性
  • 筋力の低下 等

主な甲状腺疾患

  • 甲状腺機能亢進症(バセドウ病 等)
  • 甲状腺機能低下症(橋本病 等)
  • 単純性びまん性甲状腺腫
  • 亜急性甲状腺炎
  • 結節性甲状腺腫
  • 悪性甲状腺腫(甲状腺がん) 等

検査について

甲状腺疾患でよくみられる症状については、他の疾患の一症状(更年期障害、うつ病、腎臓病、糖尿病、高血圧、認知症 等)としても現れやすいものばかりです。そのため、ご自身で勝手に判断することはせずに速やかにご受診されるようにしてください。
当院の院長は、日本甲状腺学会が認定する甲状腺専門医であるほか、日本内分泌学会が認定する内分泌代謝科専門医・指導医となっておりますので、専門的な診療を提供いたします。

何らかの甲状腺疾患が疑われる場合は、問診・触診のほか、血液検査(血中ホルモンの測定 など)、甲状腺の大きさや形、結節の中身なども確認する甲状腺超音波検査(甲状腺エコー)などを行い、総合的に判断し、診断をつけていきます。

また甲状腺で腫瘍が確認された場合、その腫瘍が良性か悪性かを判断するため、注射針を用いて腫瘍の一部を採取し(位置については甲状腺エコーで確認)、顕微鏡で詳細を確認する吸引細胞診を行います。ちなみに採取時は、非常に細い針を使用するので痛みを感じることは少なく、時間は数分程度です。甲状腺腫瘍のある場合、必要に応じて当院と医療連携を行っている甲状腺専門外科病院に紹介しています。

代表的な甲状腺疾患

バセドウ病

バセドウ病とは

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気を総称して甲状腺機能亢進症と言います。日本では、この種類の疾患を発症している9割近くの患者さんがバセドウ病です。発症の原因については、自己免疫が原因でないかと言われています。女性の患者さんが多く、なかでも20~30代が多く、次いで40~50代となっています。ただし、女性でも未成年で発症するケースは数%です。

主な症状は、甲状腺腫(喉元周辺の腫れ)、眼球突出、頻脈、動悸、血圧上昇、疲れやすい、手指の震え、暑がる、多汗、イライラする、脱毛、下痢、食べても体重が減少するなどで、女性であれば月経異常(過少月経、無月経 等)が起きることもあります。

治療方法は主に3つあるとされていますが、基本は薬物療法です。この場合、甲状腺ホルモンを抑制する働きがある抗甲状腺薬が用いられます。ただ同薬の使用は長期に及ぶうえ、治療を終えた後に再発することもあります。

後の2つの治療法は、薬物療法では効果がないと判断された際に選択されることが大半です。放射性ヨウ素(アイソトープ)治療は、I-131が入ったカプセルを服用します。この薬物が体内で吸収されると多くが甲状腺に集まって、そこで放射線(ベータ線)を放つことで甲状腺細胞の一部を破壊することで、分泌量を正常化していきます。治療期間は短期で、中高年世代の方によく用いられます。なおデメリットとしては、甲状腺機能低下症に陥りやすいということがあります。

もうひとつの治療法は、手術療法で甲状腺の一部もしくは全てを切除します。薬が効かない、甲状腺の腫れが大きすぎるという場合に選択されます。確実に治療効果は得られますが、甲状腺機能低下症になりやすいということもあります。

内服加療でコントロール出来ない場合は後者2つの治療法を検討し、総合病院や甲状腺専門外科に紹介いたします。

橋本病

橋本病とは

甲状腺に慢性的な炎症が起きている状態のため、慢性甲状腺炎とも呼ばれています。炎症の原因としては、免疫の異常などが挙げられています。これらによって甲状腺の細胞は破壊され、その機能が低下してしまうことから甲状腺機能低下症のひとつにも挙げられています(同低下症の大半は橋本病です)。患者さんの大半は女性で、その比率は男女で1:20以上とも言われています。また年齢的には20~40代の層が多く占めています。

炎症が長期に渡って続くと甲状腺は硬く腫れるようになるのですが、この状態が甲状腺ホルモンの産生を困難にし、分泌不足が起きるなどして様々な症状が現れるようになります。甲状腺腫(頸部の前面、喉ぼとけ周囲の腫れ)は、自覚症状が出にくい初期からみられます。腫れに対する痛みというのはありません。その後、甲状腺ホルモンが不足していくと、冷え性で寒がり、体にむくみ、食べなくても太る(体重増加)、便秘、皮膚の乾燥、声かれ、物忘れ、無気力などで、女性であれば月経異常(過多月経 等)もみられます。

治療に関してですが、この場合は体内で不足している甲状腺ホルモンを補充していく薬物療法となります。なお検査の結果などから橋本病と診断されたとしても甲状腺機能は正常であると判定された場合は、これといった治療は行わずに経過観察となります。

亜急性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎とは

甲状腺に炎症がみられる病気で、発症から治癒するまでに3ヵ月程度かかるとされていることから急性と慢性の間ということで亜急性甲状腺炎と呼ばれています。

原因は不明とされていますが、ウイルス感染によって引き起こされているのではないかと言われています。炎症によって甲状腺の組織が破壊され、甲状腺機能亢進症のような症状がみられますが、炎症が治まるようになれば、同ホルモンの分泌は正常化するようになります。

主な症状ですが、発症間もなくの頃に上気道炎がみられるようになります。その後、発熱、唾を飲み込む際や前頸部に痛みがみられるほか、甲状腺機能亢進症の患者さんと同様に倦怠感、手の震え、大量発汗、動悸などの症状も現れるようになります。

治療をする場合ですが、何もしなかったとしても数週間~数ヵ月が経過すれば自然と治癒していくようになります。そのため、症状がみられる場合に対症療法を行うことになります。例えば、熱や痛みをやわらげたい場合はNSAIDs、痛みや炎症の症状が強ければ、副腎皮質ホルモン(ステロイド薬)などを使用することがあります。

甲状腺腫瘍(結節性甲状腺腫)

甲状腺腫瘍とは

甲状腺に発生する腫瘍のことで、良性もあれば悪性もあります(悪性は1割程度)。発生の原因については、現時点で特定されていません。その種類は全部で4種類です。

良性腫瘍は3種類あって、腺腫、腺腫様甲状腺腫、のう胞に分けられます。腺腫は甲状腺内にひとつだけしこりが発生している状態で、薄膜に包まれた状態になっています。また腺腫様甲状腺腫は2つ以上のしこりがみられ、甲状腺の腫れ以外の症状はみられません。のう胞は、しこりの中身が液状となっています。これを皮膚の上から触るとピンポン玉のような感触が伝わってきます。ただこれらの腫瘍というのは、気管や神経を圧迫し、痛みなどの症状を引き起こすことはありません。

治療に関してですが、良性の場合は身体に悪影響が及ばない限り速やかに治療が必要ということはありません。ただ、しこりが小さくなることもありません。そのため、しこりが大きくなって日常生活に支障をきたすという場合に治療となります。この場合、甲状腺ホルモン薬による薬物療法か切除による手術療法が行われます。

また悪性の甲状腺腫瘍の場合、その大半は甲状腺がんです。ただ一口に甲状腺がんと言いましても5種類(分化がんである乳頭がんと濾胞がんのほか、髄様がん、低分化がん、未分化がん)あるとされていますが、8~9割の患者さんが乳頭がんと呼ばれるタイプのがんです。いずれのがんであっても病状の進行はゆっくりで、早期に発見できれば完治も可能です(乳頭がんはリンパ節に転移することがあります)。ただし、発症率は1%程度の未分化がんは悪性度が高く、しこりが急速に大きくなるなどし、周囲の臓器を圧迫することによる症状が強く出ます。この場合だけは致死率が非常に高いです。

甲状腺がんの治療の基本は手術療法で、大半は分化がんの患者さんです。そのため、同療法による10年後生存率は9割以上と言われています。なお未分化がんの場合は、抗がん療法や放射線治療が行われます。

先にも書きましたが甲状腺腫瘍が認められた場合、当院では総合病院や甲状腺専門外科に紹介いたします。